5年後の話になると、つい「そのときの業績しだい」で終わってしまいます。
この記事のポイント
「5年後、1人にいくら払いたいか」を先に決めると、会社が稼ぐべき粗利が逆算できます。決算書は、その差を埋める計画を立てるための道具になります。
「業績しだい」で決める給料が、上がりにくい理由
多くの会社では、まず業績が決まり、残った分から給料を考えます。この順番だと、給料はいつも「結果」になります。
中小企業庁の2026年版中小企業白書では、稼いだ付加価値のうち人件費に回っている割合(労働分配率)は、中規模企業で約7割、小規模企業で約8割とされています。すでに稼ぎの大半を人に払っている状態です。
つまり、今の稼ぎのまま、給料だけを上げる余地はあまり残っていません。給料を上げたいなら、先に「稼ぐ力」の目標を決める必要があります。
5年後の給料から逆算してみる
順番を逆にしてみます。先に「5年後、1人あたりいくら払える会社にしたいか」を決め、そこから必要な粗利を出します。
ここでは分かりやすくするため、粗利(売上総利益)に対する人件費の割合を「70%」に保つと置いて計算します。
| 項目 | 今 | 5年後 |
|---|---|---|
| 1人あたり人件費 (会社負担の社会保険料込み) |
500万円 | 600万円 |
| 人数 | 10人 | 10人 |
| 人件費の合計 | 5,000万円 | 6,000万円 |
| 必要な粗利 (人件費÷70%) |
約7,140万円 | 約8,570万円 |
※数値は架空の例です。
人数が同じでも、5年で粗利を約1,430万円増やす必要があります。1年あたりにならすと、粗利を毎年約3.7%ずつ伸ばす計算です。
「5年で1,430万円」と聞くと遠く感じます。でも「毎年3.7%」なら、何をすればよいかを具体的に話し合えます。
3.7%をどこで生むか
粗利を増やす方法は、大きく分けて次の3つです。
- 値段を見直す(値上げで何%お客が減っても利益を守れるか)
- 儲からない仕事・取引先を見直す(取引先別の利益の見方)
- 同じ人数で回せる仕事の量を増やす(仕組み化・道具の見直し)
どれか1つで3.7%を作る必要はありません。値段で1%、取引先の見直しで1%、仕事の進め方で1.7%。こう分けると、それぞれの担当と期限が決められます。
明日からできること
大事なのは、正確な計画より「目標の数字が1つある」ことです。
- 5年後に払いたい「1人あたりの年収」を、紙に1つだけ書く
- 直近の決算書で「人件費÷粗利」を計算し、今の割合を知る
- 上の表に当てはめて「毎年何%、粗利を伸ばせばよいか」を出す
- その数字を幹部と共有し、「どこで生むか」を話し合う
数字が出ると、給料の話が「社長の気持ち」ではなく「会社の目標」になります。社員にとっても、何をがんばれば給料が上がるのかが見えやすくなります。
なお、白書では、業績の改善をきっかけとせずに賃上げした中小企業が4割を超えると報告されています。人を確保するために「先に上げざるを得ない」会社が増えているからこそ、稼ぐ力の計画を先に持っておく意味があります。
3分でできるセルフチェック
☐ ① 5年後、社員1人にいくら払いたいか、数字で言えますか?
☐ ② 自社の「人件費÷粗利」が何%か、知っていますか?
☐ ③ 粗利を毎年何%伸ばせばよいか、幹部と話したことがありますか?
答えに詰まったところが、会社の伸びしろです。
給料を「結果」から「目標」に変えると、決算書は過去の報告書ではなく、未来の設計図になります。まずは5年後の数字を1つ、書いてみてください。
当事務所では、こうした問いを決算書と試算表で社長と一緒に考える「経営戦略会議」を行っています(初回お試しは無料です)。
参考:中小企業庁「2026年版 中小企業白書 第1部第1章第3節 雇用・賃金」
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。個別の状況により取扱いが異なりますので、具体的な判断はご相談ください。