原材料も人件費も上がっているのに、価格だけは据え置いたまま。そんな社長は少なくありません。
この記事のポイント
値上げで「何%まで客数が減っても粗利が変わらないか」は、粗利率から計算できます。怖さを数字に置き換えると、値上げは「勇気」ではなく「判断」になります。
値上げが怖いのは「どこまで減ってよいか」が分からないから
値上げをためらう理由の多くは、お客さんが減ることへの不安です。ただ、その不安には「何人減ったら困るのか」という線が引かれていないことがほとんどです。
線がないと、1件の解約や1人の常連さんの声が、実際以上に大きく感じられます。まずは「ここまでなら減っても大丈夫」という線を、数字で引いてみましょう。
粗利率30%の会社が5%値上げしたら
月の売上が1,000万円、粗利率(売上から仕入・材料費を引いた割合)が30%の会社で考えます。原価は変わらず、販売価格だけを5%上げたとします。
| ケース | 売上 | 粗利 |
|---|---|---|
| 今のまま | 1,000万円 | 300万円 |
| 5%値上げ・客数そのまま | 1,050万円 | 350万円 |
| 5%値上げ・客数約14%減 | 約900万円 | 300万円 |
| 5%値下げ・客数そのまま | 950万円 | 250万円 |
※数値は架空の例です。
値上げした5%は、原価が変わらないのでそのまま粗利に乗ります。客数がそのままなら、粗利は300万円から50万円増えます。
逆に言えば、客数が約14%減るところまでは、粗利は今と同じです。10人に1人が離れても、手元に残るお金は減らない計算です。
反対に5%値下げすると、同じ粗利を稼ぐには客数を20%増やす必要があります。値下げの方が、ずっと高いハードルなのです。
「許される客数減」の簡単な計算式
計算式は、値上げ率 ÷(粗利率+値上げ率)です。粗利率によって、許される幅は変わります。
| 粗利率 | 5%値上げで許される客数減 |
|---|---|
| 20% | 20% |
| 30% | 約14% |
| 40% | 約11% |
※数値は架空の例です。人件費などの固定費は変わらない前提で計算しています。
粗利率が低い会社ほど、値上げが利益に効きます。「うちは薄利だから値上げできない」ではなく、薄利だからこそ値上げの効果が大きいのです。
取引先との価格の話し合いも、数字が土台になる
企業間の取引では、2026年1月から下請法が「取適法」に改正されました。受注側から価格の協議を求められたのに、発注側が協議に応じず一方的に代金を決めることが、新たに禁止されています。
経済産業省が2026年6月に公表した調査では、コスト上昇分のうち価格に転嫁できた割合は全体で54.2%でした。話し合いの場は広がりつつありますが、そこで説得力を持つのは「材料費と人件費がいくら上がったか」という自社の数字です。取引条件の具体的な交渉方法や法律の判断は、専門の窓口や弁護士にご相談ください。
明日からできること
- 試算表で、自社(できれば商品・取引先ごと)の粗利率を確認する
- 値上げ率3%・5%・10%ごとに「許される客数減」を1枚の紙にまとめる
- 全商品一律ではなく、粗利が薄い商品・手間がかかる取引から検討する
- 値上げ後の3か月は、客数・取引件数と粗利を毎月並べて見る
3分でできるセルフチェック
☐ ① 自社の粗利率を、すぐに答えられますか?
☐ ② 5%値上げしたら、何%までお客さんが減っても大丈夫か知っていますか?
☐ ③ 最後に価格を見直したのは、いつか覚えていますか?
答えに詰まったところが、会社の伸びしろです。
値上げの怖さは、「どこまで減ってよいか」を数字で知ることで小さくなります。まずは自社の粗利率から、線を一本引いてみてください。当事務所では、こうした問いを決算書と試算表で社長と一緒に考える「経営戦略会議」を行っています(初回お試しは無料です)。
参考:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!委託取引のルールが大きく変わります」
参考:経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。個別の状況により取扱いが異なりますので、具体的な判断はご相談ください。