来期の採用を考え始めるこの時期、多くの社長が同じところで手が止まります。
この記事のポイント
「雇えるか」は給料の額ではなく、「その人の総額を払える粗利を、誰がどこから生むか」で決まります。1人あたりの総額・必要な売上・立ち上がりまでの資金、この3つを出せば5分で判断の材料がそろいます。
「忙しいから雇う」だけでは判断できない理由
人手不足の中、忙しさは採用の十分な理由に見えます。ただ、忙しさは「売上が増えた」からとは限りません。
- 利益の薄い仕事が増えて忙しい
- やり直しや段取りの悪さで時間を取られている
- 社長がしていた仕事を、誰も引き取れていない
どれが原因かで、必要なのが「人」なのか「仕事の見直し」なのかが変わります。まずは数字で、一人雇うと会社の負担はいくら増えるのかを確かめてみましょう。
一人あたりの「総額」は、給料より大きい
求人票に書く金額と、会社が1年間に払う金額は同じではありません。賞与や、会社が負担する社会保険料が加わるからです。
たとえば兵庫県の会社で40歳未満の社員を雇う場合、令和8年度の料率で見ると、会社負担は健康保険が5.06%、厚生年金が9.15%、雇用保険が0.85%などで、合計すると給与・賞与の約15%になります。これに労災保険料(業種で異なります)なども加わります。
| 項目 | 内容 | 年額 |
|---|---|---|
| 給与 | 月25万円×12か月 | 300万円 |
| 賞与 | 年2か月分 | 50万円 |
| 会社負担の社会保険料 | 給与・賞与の約15% | 約53万円 |
| 採用・教育・備品 | 求人費、パソコン、研修など | 約20万円 |
| 合計 | 1年目の総額 | 約423万円 |
※数値は架空の例です。
月給25万円の人でも、会社から出ていくお金は1年で400万円を超えます。ここが判断の出発点です。
その総額を払うには、いくら売上が必要か
人件費は売上からではなく、粗利(売上から仕入・外注費などを引いた残り)から払います。ですから「必要な売上」は、総額を粗利率で割ると出てきます。
| 粗利率 | 必要な売上(年) | 月あたり |
|---|---|---|
| 40% | 約1,060万円 | 約88万円 |
| 25% | 約1,690万円 | 約141万円 |
※数値は架空の例です。
粗利率25%の会社なら、一人増やすたびに月約141万円の売上の上乗せが必要になる計算です。「その売上を、誰が、どこから取ってくるのか」まで言えれば、採用は前向きな投資になります。
売上を増やすための採用でなく「社長の手を空けるため」の採用なら、問いは「空いた時間で、社長は何を生むか」に変わります。営業や仕組みづくりに使う時間が決まっていれば、それも立派な理由です。
見落としがちな「立ち上がりまでの資金」
新しい人は、入社した日から一人前ではありません。仮に最初の半年は半人前と考えると、その間は会社の手元資金で支えることになります。
上の例なら、半年分の総額は約210万円です。採用を決める前に、少なくともこの金額が通帳に残る見通しがあるかを確かめておくと安心です。
明日からできること
- 来期に雇いたい人の「1年目の総額」を、賞与と会社負担の社会保険料まで入れて書き出す
- 直近の試算表から自社の粗利率を確認し、総額を割って「必要な売上」を出す
- その売上の出どころ(既存客・新規・値上げ)と、立ち上がり半年分の資金を、幹部と一緒に確認する
3分でできるセルフチェック
☐ ① 次に雇う一人の「1年目の総額」を、すぐに答えられますか
☐ ② その総額を払うために必要な売上と、その出どころを言えますか
☐ ③ 立ち上がりまでの半年分の人件費を、手元資金で支えられますか
答えに詰まったところが、会社の伸びしろです。
「あと一人」は、給料の額ではなく、粗利と資金で決めるものです。数字が見えると、採用は不安な賭けから、計画した投資に変わります。
当事務所では、こうした問いを決算書と試算表で社長と一緒に考える「経営戦略会議」を行っています(初回お試しは無料です)。
参考:全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」/日本年金機構「厚生年金保険の保険料率(資料)」/厚生労働省 山形労働局「令和8年度の雇用保険料率について」
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。社会保険の加入や手続きの詳細は社会保険労務士にご相談ください。個別の状況により取扱いが異なりますので、具体的な判断はご相談ください。