「利益を増やしたいなら、まず売上を伸ばそう」。多くの会社で、まず出てくるのはこの言葉です。
でも、売上を伸ばす方法は一つではありません。同じ会社で「数量を増やす」「単価を上げる」「粗利率を上げる」の3つを並べると、利益への効き方も、社長と現場の負担も大きく違います。
この記事のポイント
粗利率30%の会社では、単価を3%上げることと数量を10%増やすことが、ほぼ同じ利益になります。ただし、数量を増やすほうは仕事量・人手・運転資金も一緒に増えます。どれを選ぶかは「いま会社に余力があるか」で決まります。
同じ会社で、3つの打ち手を比べてみる
年商1億円、粗利率30%(粗利3,000万円)、人件費や家賃などの固定費が2,700万円、営業利益300万円の会社で考えます。
| 打ち手 | 社長と現場の負担 | 営業利益 |
|---|---|---|
| いま | ― | 300万円 |
| ① 数量を10%増やす | 仕事・仕入・在庫・売掛金も1割増える | 600万円 (固定費が増えない場合) |
| ② 単価を3%上げる | 仕事量は同じ。交渉と説明が要る | 600万円 |
| ③ 粗利率を1ポイント上げる | 仕入・外注・ロスの見直し | 400万円 |
※数値は架空の例です。②は数量が変わらない前提です。
なぜ「3%の値上げ」が「10%の増収」と並ぶのか
数量を10%増やすと、売上は1,000万円増えます。でも仕入も同じだけ増えるので、手元に残る粗利の増加は30%分の300万円です。
一方、単価を3%上げると売上は300万円増え、仕入は変わりません。値上げ分は、ほぼ全額が利益に残ります。そのため、粗利率30%の会社では 3% の値上げが、10%の数量増と同じ効き目になります。
③の粗利率1ポイントも、利益300万円の会社にとっては3割増です。小さく見える数字ほど、利益への効き方は大きくなります。
数量を増やす打ち手の、見えにくいコスト
表の①は「固定費が増えない場合」です。実際には、仕事が1割増えると次のようなことが起きがちです。
- 残業が増える、外注が増える
- 人手が足りず、1人採用する(総額400万円なら、利益は200万円に)
- 社長が現場に入る時間が増え、営業や判断の時間が減る
お金の面でも差が出ます。売上の入金が2か月後の会社なら、月商が約83万円増えると、売掛金も約167万円増えます。在庫を持つ会社は、在庫の分も先にお金が出ていきます。
売上が伸びている時期ほど、入金より支払いが先に来て、通帳が減ることがあります。数量を増やす計画を立てるときは、利益の見込みと一緒に「入金と支払いのずれ」も確認してください。
判断の分かれ目:どの打ち手から始めるか
① 数量から始めてよい会社
- 人も設備も手が空いていて、いまの体制のまま仕事を増やせる
- 入金が早い(現金商売、前払いが多い)
② 単価から始めたほうがよい会社
- 現場がすでに手いっぱいで、これ以上は残業か採用になる
- 数年、価格を見直していない商品・取引先がある
③ 粗利率から始めたほうがよい会社
- 値上げの交渉がすぐには難しい取引が多い
- 仕入先・外注先の見直しや、ロス・値引きの点検をしばらくしていない
値上げで客数や受注が減ったらどうなるかは、「値上げしたらお客が減る?」の記事で試算しています。
値上げの交渉で知っておきたいこと
経済産業省の調査では、2026年3月時点で、コストの上昇分のうち価格に反映できた割合(価格転嫁率)は 54.2% でした。コストが上がった分の半分ほどしか、価格に乗せられていない計算です。
また、2026年1月から下請法が改正され、「中小受託取引適正化法(取適法)」になりました。対象となる取引では、受託する側が価格の協議を求めたのに、発注する側が協議に応じず一方的に代金を決めることが禁止されています。対象になるかどうかは資本金や取引の内容で決まるため、気になる取引は所管の窓口や専門家に確認してください。
交渉のときは「材料費が上がったので」だけでなく、人件費やエネルギー費など、何がいくら上がったかを数字で示せると話が進みやすくなります。
利益を増やす打ち手は「売上を伸ばす」だけではなく、単価・数量・粗利率の組み合わせです。いまの会社の余力に合った順番を選ぶことが、無理なく利益を残す近道になります。当事務所では、こうした問いを決算書と試算表で社長と一緒に考える「経営戦略会議」を行っています(初回お試しは無料です)。
参考:経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果について」
中小企業庁 ミラサポplus「取適法(改正下請法)」の解説
※本記事は2026年11月時点の公表資料に基づいています。個別の状況により取扱いが異なりますので、具体的な判断はご相談ください。