売上の大きい取引先ほど、値段や手間の話を後回しにしてしまう。そんな社長は少なくありません。
この記事のポイント
売上が一番大きい取引先が、一番お金を残してくれているとは限りません。粗利から「その取引先にかけている手間」を引いて並べると、守るべき先と、条件を見直すべき先が見えてきます。
売上の順番と、儲けの順番は違う
月次の資料で、取引先ごとの売上を見ている会社は多いと思います。でも、取引先ごとの「儲け」まで見ている会社は、ぐっと少なくなります。
大口の取引先ほど、次のようなことが起きやすいものです。
- 値引きや特別価格を受け入れていて、粗利率が低い
- 急な納期・細かい仕様変更・打ち合わせが多く、社内の時間を使っている
- 支払いまでの期間が長く、その間のお金を会社が立て替えている
どれも決算書には「取引先別」には出てきません。だから、売上が大きいというだけで「大事な先」と思い込んでしまうのです。
粗利から「手間」を引いて並べてみる
ざっくりで構いません。取引先ごとに、次の3つを出してみます。
- 年間の売上と粗利(売上から仕入・外注費を引いたもの)
- その取引先のために社内で使っている時間(担当者・社長の時間)
- その時間を、1時間あたりの人件費でお金に置き換えた額
たとえば、粗利率と手間がそれぞれ違う3社を並べると、こうなります。
| 取引先 | 年間売上 | 粗利−手間の費用 |
|---|---|---|
| A社(粗利率20%・月40時間) | 1,200万円 | 96万円 |
| B社(粗利率35%・月10時間) | 600万円 | 174万円 |
| C社(粗利率40%・月5時間) | 300万円 | 102万円 |
※数値は架空の例です。手間の費用は1時間3,000円で計算しています。
売上はA社がB社の2倍です。それでも、手間を引いた後に残るのは、B社のほうが78万円多くなっています。売上が4分の1のC社でさえ、A社より多く残しています。
ここに「支払いまでの期間」も加えると、差はさらに広がることがあります。入金が遅い先ほど、会社は運転資金を長く立て替えているからです。
見えたあとに、社長が決めること
数字が見えても、A社との取引をやめる話ではありません。大口の取引先は、工場や人の稼働を支えてくれている大切な存在です。決めるのは「条件をどう整えるか」です。
1. 値段の話をする
原材料や人件費が上がっているなら、根拠の数字を添えて価格の相談をします。2026年1月1日に施行された「中小受託取引適正化法(取適法)」では、対象となる取引で、受注側から価格の協議を求められたのに応じない・説明しないまま、発注側が一方的に代金を決めることが禁止されました。相談すること自体は、遠慮しなくてよいことになっています。
2. 手間の中身を整理する
値段が動かしにくいなら、手間を減らす道もあります。発注の締め日を決める、仕様変更の受け方をルールにする、打ち合わせの回数を見直す。月40時間が25時間になれば、それだけで年間54万円分の時間が戻ります。
3. 伸ばしたい先に時間を回す
B社やC社のように、手間が少なく粗利の厚い先は、会社の利益を支える土台です。戻ってきた時間を、こうした先との取引を広げることに使えるかを考えます。
3分でできるセルフチェック
☐ ① 売上上位3社の「粗利率」を、それぞれ言えますか?
☐ ② 一番手間がかかっている取引先はどこか、社内で意見がそろいますか?
☐ ③ 最後に値段の相談をしたのはいつか、取引先ごとに思い出せますか?
答えに詰まったところが、会社の伸びしろです。
売上の大きさは、取引先の「ありがたさ」を表しますが、「儲け」を表すとは限りません。一度だけでも、粗利と手間を並べた表をつくってみると、次の一手が具体的になります。当事務所では、こうした問いを決算書と試算表で社長と一緒に考える「経営戦略会議」を行っています(初回お試しは無料です)。
参考:中小企業庁(ミラサポplus)「【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など『取適法』がもたらす変化」
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。個別の状況により取扱いが異なりますので、具体的な判断はご相談ください。