「そろそろ法人にしたほうがいいのかな」。売上が伸びてきた個人経営の飲食店オーナーから、よく聞く言葉です。私自身、飲食店の現場にいたころ、「法人にすると得らしい」という話を何度も耳にしましたが、その中身を説明できる人はほとんどいませんでした。
この記事では、法人成り(個人のお店を会社にすること)について、オーナーからよく受ける6つの質問に答えます。
この記事のポイント
法人にするかどうかは、売上ではなく「利益」と「これからの店の形」で決めます。消費税・社会保険・社長の給料の決め方が変わるため、得か損かは店ごとに違います。
Q. 売上がいくらになったら、法人にするべきですか?
A. 売上の金額だけでは決まりません。見るのは、経費を引いたあとの利益(所得)です。
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる仕組みで、税率は5%から45%までの7段階です。利益が大きくなるほど、法人にして社長の給料と会社の利益に分けるメリットが出やすくなります。
一方で、法人にすると社会保険料や事務の手間が増えます。売上が同じでも、食材費や人件費の割合で利益は大きく変わるため、「売上〇〇万円を超えたら」という目安は当てになりません。
Q. 法人にすると、消費税が2年間かからないと聞きました。
A. インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしている場合は、法人にしても消費税は免除されません。
以前は「新しく会社をつくると、最初の2年間は消費税の納税がない」とよく言われました。しかし今は、次のどれかに当てはまると、設立直後から納税が必要です。
- インボイスの登録をしている(接待や会社のお客様が多い店は、登録していることが多いです)
- 設立時の資本金が1,000万円以上
- 最初の事業年度の前半6か月で、売上と給与の支払額がどちらも1,000万円を超えた(2年目から納税)
「消費税が2年間かからないから法人にする」という判断は、今の制度では成り立たないことが多いです。消費税は法人成りの理由にせず、利益と社会保険で考えるのが安全です。
Q. 社会保険は、どう変わりますか?
A. 会社は、社長1人だけでも健康保険・厚生年金に加入する事業所になります。
保険料は会社と本人で負担するため、法人にすると、社長の給料や従業員の給料にかかる保険料が新たに出ていくお金になります。その分、将来の年金や病気のときの給付は手厚くなります。
個人のお店のままの場合は、従業員の人数や業種によって扱いが異なります。加入の手続きや判断は、社会保険労務士にご相談ください。
Q. 法人にしたら、社長の給料は自由に決められますか?
A. 決められるのは、原則として事業年度が始まってから3か月以内です。その後は、毎月同じ額を払い続ける必要があります(定期同額給与)。
「12月は忙しくて儲かったから、社長の給料を上げよう」という変え方をすると、上げた分が会社の経費になりません。飲食店は、忘年会シーズンと閑散期で売上が大きく動きます。1年の売上の波を見込んで、無理のない額を最初に決めておくことが大切です。
Q. 法人にするなら、いつがいいですか?
A. 繁忙期の真ん中は避け、落ち着いて準備できる時期をおすすめします。
法人にすると、店の名義が個人から会社に変わります。準備には、次のような手間がかかります。
- テナントの賃貸借契約、リース、借入の名義の確認
- 銀行口座、キャッシュレス決済、POSレジ、会計ソフトの切り替え
- 営業許可など許認可の確認(保健所や行政書士に相談)
決算月(会社の1年の区切り)も自由に選べます。12月のような繁忙期の直後を決算月にすると、棚卸しや決算の準備が忙しい時期と重なります。閑散期を区切りにするのも一つの考え方です。
| 項目 | 個人のお店 | 法人のお店 |
|---|---|---|
| 1年の区切り | 1月〜12月で固定 | 決算月を選べる |
| オーナーの取り分 | 利益がそのまま所得 | 役員報酬(原則、毎月同額) |
| 社会保険 | 人数・業種で異なる | 社長1人でも加入 |
| 赤字の年の税金 | 所得税はかからない | 住民税の均等割がかかる |
Q. 法人にしないほうがいいのは、どんなときですか?
A. 利益がまだ安定していないときは、急がなくてよいことが多いです。
法人には、赤字でも払う地方税(均等割)があります。決算や申告の手間も、個人より増えます。開業して間もない時期や、利益が年によって大きく上下する時期は、まず毎月の数字を安定させることが先です。
反対に、2店舗目の出店や、従業員を増やして長く働いてもらう店づくりを考えているなら、法人にすることで採用や取引の面で動きやすくなる場合があります。「これからどんな店にしたいか」が、判断のいちばんの材料です。
法人成りは、税金だけで損得を決めるものではなく、店の数字とこれからの形を並べて考えるものです。当事務所では、飲食店の数字をfreeeで毎月見える化し、オーナーと一緒に判断を考えています(初回お試しの経営戦略会議は無料です)。
参考:国税庁「No.6501 納税義務の免除」/国税庁「No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき」/国税庁「No.2260 所得税の税率」/国税庁「No.5211 役員に対する給与」/日本年金機構「適用事業所と被保険者」/総務省「法人住民税」
※本記事は2026年11月時点の公表資料に基づいています。個別の状況により取扱いが異なりますので、具体的な判断はご相談ください。